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日本を代表して?怒られたり、宮部みゆき『蒲生邸事件』を読んだり。

 知り合いの同世代の北米人で・・・会うたびに、「政治」ネタを振ってくる人がいます。

 「日本人はなんでこんなに世界で起きていることに疎いんだろう!このニュース、すごく有名なのに、今まで話した日本人、誰も知らないって。この国のニュースどうなってるんだ。だいたい、政治家がこれこれこんなバカなこと言ってるのに、なんで日本人は誰も行動を起こさないし、文句もいわないんだ!」
 「なんで、起訴された98パーセントが有罪になるような国で、死刑制度があるの。おかしいと思わないの?」
 「だれも特には食べたがらないクジラなのに、どうして日本政府は『調査』なんてごまかしの名のもとに捕鯨をする?それに、知ってる?赤ちゃんクジラが生きたまま血を吐きながら日本の調査捕鯨船で牽引されていくのをニュースやネットで見て、世界中が日本のことを怒っているのに、日本人の知り合いは、誰もそんな映像見てないって言うんだ!」
などなどなど。

 黙って聞いていればいいんですが。つい。

 「Youが話している30代から50代の日本人は、(Youと違って)はっきり言って忙しすぎて、ワールドニュースを全部チェックして、いちいち行動してる暇なんてないんだから!(こりゃ我ながら屁理屈か)。」
 「でも死刑が宣告される人の数は少ないし、その中で執行される人は本当―――に少ないんだよ?よっぽどの場合だけじゃないかな?で、死刑制度があること自体は日本人に支持されてるわけで・・・。」
 「世界中って何?英語の通じる世界が世界中??じゃ、逆に聞きたいんだけど、調査とかでなく、堂々と捕るなら捕鯨に賛成するの?文明的に殺すなら賛成するの?何が何でも反対でしょう?違う?」

 よせばいいのに、日本人を代表して??こんな小学生みたいな反論をして、「あー本当に日本人はバカばかり・・・もう本当に泣きたくなる」という顔をされるんですが・・・それでも、そういう話を最後まで聞いてくれる人自体少ないらしく(笑)、会うたびに際限なくふってきてくれます(泣)。

 さて、そんなプレッシャーの中で最近読んだのが、宮部みゆきさんの『蒲生邸事件』(全然つながりが見えなくて済みません!)

 96年に出版されて、日本SF大賞をとった小説です。もう12年前の作品ですが、読んだことがありませんでした。カバーの言葉をそのまま借りれば、「予備校受験に上京した少年が、時間旅行の能力を持つ男によって、昭和11年2月26日の東京に運ばれた。」という設定。

 タイムトラベルというSFであり、2・26を扱った歴史小説でもあり。密室殺人?(殺人かどうかがわからないという設定。亡くなる人物については完全なフィクション)の推理小説でもあり、そこにロマンティックな味付けもあり。厚さのわりに飽きずにあっさり読めます。

 思ったほど、2・26事件そのものには深く踏み込んではいない印象でした。もりたなるおさんの帯解説の言葉では「いまを盛りの女流作家は(中略)歴史の傍観者たちのあと知恵姿勢に、強烈な批判をくわえた」ということですが。
 タイムトラベラーの平田は、あと知恵でさかしく生きることより、人間らしく生きることを選び、あえて戦時下の昭和時代の波に翻弄されながら自分の人生をまっとうします。

 あと知恵で歴史を、人の生き方を批判する人がいるけれど、もしそういう人が、タイムトラベルができたとしたら、その人はその時代で本当に何か変えることができたのか?できないのではないのか?その時代にただ翻弄されながら、自分なりに精一杯生きた人を冷笑したり、批判できるのか?という問いかけがそこにはあって、一応共感できます。・・・が、そこに、宮部さんの歴史観も見えて、それが同世代の日本人にある程度共通するものに思えて興味深く、また危なっかしく思いました。

 それは、歴史の大きな流れは、少数の力では変えられないという歴史観。
 歴史の大きな流れの中では、人のあがきで小さな出来事を変えることはできても、大きな流れを変えることはできないという歴史観。
 小説の中で、「未来」を知るタイムトラベラーの平田は、何度も起きる出来事を変えようとしたが、一つを変えても、結局同じようなことが起きた・・・というエピソードを語っているのです。

 これなのかも。と思ってしまいました。知り合いのカナダ人を常にいらだたせている、日本人の歴史観というか、政治的な態度がこれなのかなあ、と。もっとはっきり言えば、私の態度なのだけど。

 ヒットラーを止めることができても、当時のドイツには、違うヒットラーが生まれていたのではないのかという歴史観。必ずしも悲惨な歴史に対してではなく、たとえばキング牧師がいなかったとしても、同じようなヒーローが生まれて、やはり差別解消や人権運動は進んでいただろうという思い。自分の中のどこかに、たぶんそんな思いがあるのではないか?と考えてしまいました。

 同じ政治的?SF小説でもスティーブン・キングの『デッド・ゾーン』では、主人公がアメリカをミスリードする大統領候補を殺して、満足感の中で小説が終わっていなかったっけ。一人の人間が世界を変えるパワーがあると信じる、楽天的な・・・ポジティブな行動につながる世界観がそこにあるような気がします。

 どちらが正しい、ということではないと思うけれど、たぶん確かだと思うのは「みんなが宮部さん(ぼくてき)的な歴史観・世界観をもってちゃ、だめだろうなあ」ということ。

 牛肉の輸入に関しての韓国のデモなんか見ていても、同じことが日本であってもこんなにみんな騒がないで、くすぶってるうちに通っちゃうかもしれないとも思います。どうしようもないことで騒ぐ必要はないけど、騒がなきゃいけないところでもおとなしいって、やっぱりまずいよね・・・でもね・・・。

 ・・・などと考えていたら、冒頭の知人が「とにかく、もう少し勉強しなさい」といって、Naomi Kleinさんの『The Shock Doctrin』という本をくれました。Introductionの英語が読みにくいと聞いてびびりましたが、そうでもないようです・・・けれど、最近英語の本を読んでいないので、今日仕事帰りに読み始めたら、4ページで寝てしまいました(泣)。
 ハリケーン「カトリーナ」への、アメリカの政府(政治家)の対応についての話からはじまっていました。時間がかかりそうですが・・・もし読めたら(後ろ向き)また報告したいと思います(っていうか、翻訳出てないかな・・・って、ホントに読める自信なくて困ってます)。

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コメント

こんばんは!

面白い友人ですね。
自分の周りが知っていれば、「世界」が知っていると思っている・・・
そんな方には、「世界中って何?」って逆に質問するに限りますね。

日本人にもいますよね、「欧米では・・・」なんていう人。ヨーロッパ何カ国あるんか知ってるの?っていつも逆に質問したくなります。

あまり熱くならず、冷静に答えてあげるのが一番です。

まあ、それは置いといて・・・
『蒲生邸事件』面白そうですね。
宮部みゆきさんって、SFから時代物から、幅広くミステリー(と言うべきか?)に取り入れて、面白い小説書きますよね。

投稿: Husky | 2008年6月15日 (日) 21時10分

Huskyさん

こんばんは。
はい、面白くて、人柄もいい方なんですが、政治の話になると熱くて、時々閉口します。

宮部さんは本当に面白くて読みやすい小説の名手ですよね。
あ、それから『The Shock Doctrin』も(読み始めたばかりですが)面白いですよ。知人と同じように完全に「リベラル」な筆者がその立場で書いていますが、引用は全てちゃんと元のとれる話。なので、どんな考えの人のもとに何が起きているのか・・・という事実の部分を読んでも興味深い内容だと思います。翻訳はまだ出てないようです。

投稿: ぼくてき | 2008年6月15日 (日) 21時46分

ぼくてきさんこんにちは。いっぱい更新されていて嬉しいです。
そうか、『蒲生邸事件』にはそういう読み方もあるんですね。私はただひたすら主人公をはじめとする人物や彼ら(彼女ら)の思いの行く末がどうなるのか、というところにばかり集中して読んでいたので。平田の決断も、彼のあり方としては納得できる気がしたんです。あえてそれを選ぶということが、彼の「タイムトラベル」という特別能力に対する封印のような感じがして。
でも、宮部さんの小説は本当にどれもいいですね!

投稿: yumemi | 2008年6月16日 (月) 22時10分

yumemiさん
こんばんは!
 最近はまた、サイトにもよくお邪魔しているのですが、読んでいない作品ばかりで(それですごく参考にさせていただいてるばかりで)なかなかコメントできなくてごめんなさい。
 宮部さんの小説は本当に「読ませる」小説ですよね。話の展開が面白いし、私にとっては同性・同世代として共有している「気分」にも、改めて気づかされる作家です。

 私も、平田の言い訳をせず、ずるもせず時代の中でただ散る「日本的潔さの美学」には感覚的には共感してしまうんです。が、実際は本当に未来を知って未来から来る人はいないので「歴史の流れの中の個人の役割」を諦めるような発想を、皆が受け入れていいのか・・・と。また、実効力はない平田的な美学が(国際政治上や国際交流的に)どれだけ通用するのか・・・などと考えると複雑な気持ちになってしまいました。

投稿: ぼくてき | 2008年6月16日 (月) 22時59分

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