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アレックス・シアラー 「スノードーム(原題:The Speed of the Dark)」

本の話が続いてしまっていますが・・。

またアレックス・シアラーさんの本を読みました。「スノードーム(原題:The Speed of the Dark)」。ミステリー仕立てのSF仕様で飽きさせずに読ませますが、これは内容の重い本でした。

石田文子訳でのシアラーさん自身の解説によると、この作品は「なによりも芸術家と芸術についての物語であり(中略)そこには芸術を通してしか世界と関わることができず、人間的な交わりや愛を経験できなかった者の願いが描かれている」とのこと。

確かに登場人物は、語り手であるチャーリー(凡人の典型?)を除いてはみな「芸術家」です。作中作品の語り手クリストファーも物理学者ですが、芸術家の魂を持った人物として描かれていることがわかります。ただ、読んで印象に残るのはもっと普遍的な人間性。「いい人」「悪い人」などという言葉では二分できない人間性そのもの。

登場人物の中で、一番心の内面が描き込まれているのはエックマンという人物。プライドは高いのに、自分の外見によって周囲から心を傷つけられ、劣等感が強くどこまでも利己的で卑劣な暗い人間。近くにいたら、近づきたくはない人物です。

ところが、読んでいるうちに、いつの間にかエックマンの心の痛みを深く感じてしまいます。

『怒り』という題の16章のエックマンの心の記述は、胸が悪くなるほど利己的で醜いにもかかわらず、もっとも切なくて泣かせます。こんなに人を傷つけたくなる程の、心の傷の深さや痛みは、どれ程辛いものなんだろう。本当はただ人に愛されたい、愛したいと思っている。気持ちの持ち方を変えればできると周りからは思えるのに、それが見えないほど深いトラウマを抱えているのです。

内容の重い本、と書きましたが、読後感は暗いものではないです。強い憎悪や深い愛の中で、皆、苦しみながら限られた命を燃やしている・・それを見つめる作者(シアラーさん)の視点に「許し」が感じられるからかな、と思います。うまく言えませんが。

すでに「シアラーファン」になっている娘が「面白い?」と聞いて読もうとしましたが、難しいと思うよ、と言ってとめました。

難しくはないかも知れないけど、まだ早い。もう少しお姉ちゃんになって、人間関係のいろんな痛みを味わってから読んでごらん。人を少し許せるかもしれないよ。または、自分を追い込まなくてすむかもしれないよ。そう思いました。

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コメント

またまたお邪魔してしまいました。
アレックス・シアラーは好きな作家さんで、思わずおおお、となってしまいました。ただ「スノードーム」は未読なので、こちらも今度読ませてもらいますね。
自分も娘がいるのですが、将来色々な事を体験した後に同じ本を読んだりするのかな?と思うと不思議な感覚です^^

投稿: まに | 2006年5月19日 (金) 18時45分

これは好き嫌い分かれると思うんですが、
私は好きでした。重いけど。

まにさんは小説たくさん読んでらっしゃるんですね。

私の場合、フィクションは読んでつまらないと「あー時間がもったいなかった!」と思ってしまうので、作家さんを信頼しないとなかなか手が伸びなくて・・・。つい同じ人のばかり読んでしまうことが多いです。

投稿: ぼくてき | 2006年5月19日 (金) 22時08分

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